早稲田大学比較法研究所叢書50
持続可能な農地利用のための農地法制の比較研究
―ドイツ・中国・日本―楜澤能生・文 元春 編
定価:5,000円(税込)-
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発行:
2023年03月31日
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判型:
A5判上製 -
ページ数:
496頁 -
ISBN:
978-4-7923-3428-4
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内容紹介
《目 次》
はしがき i
解題:ドイツ編・日本編 楜澤能生 xix
I 農業のエコロジー化と財政支出 xx
II 持続可能な農業の指導像と農地法制 xxii
1 「家族経営」と「農業の工業化」 xxii
2 政策上の指導像と農地法制 xxiv
III 所有権をめぐる問題 xxv
1 法の欠缺:シェアディール xxv
2 所有権概念の再考 xxvi
解題:中国編 文元春 xxviii
第1部 ドイツ編
1.EUとドイツにおけるエコロジー農業政策 欧州連合の「農場から食卓まで」戦略 Cara von Nolting 3
I 欧州グリーンディールの一環としての「農場から食卓まで」戦略 3
II 「Farm to Fork戦略」 5
1 持続可能な食料品生産 6
2 持続可能な食料品加工 6
3 持続可能な食料品消費 7
4 食料品ロスと廃棄物の削減 7
5 持続可能な食料品生産のための2030年目標 8
6 統合的方法 8
III 実施 9
1 現在までの実施状況 9
2 今後のロードマップ 12
IV CAP改革における考慮事項 13
V Farm to Fork戦略への批判 13
VI 総括評価 15
有機農業に関するドイツの戦略 Josè Martinez 16
I 戦略を通じた転換 16
II 具体的な持続性戦略としての未来戦略 17
III 有機農業の割合 18
IV 有機農産物市場 19
V 有機農業の助成適格性 19
VI 将来戦略の内容:手段の組み合わせ 22
VII 要約 25
2.持続可能な農地利用と政策
ドイツにおける持続可能な農地利用のための政策と法的デザイン Josè Martinez 26
I 持続可能な農地利用のための実際の課題 26
1 環境保護 26
2 農林地取引 29
II 農業政策が行き詰まる政治的・法的理由 30
1 複雑な責任分担 30
2 一貫性の欠如 31
(1)環境保護─農林地取引 31
(2)計画法─持続的な農業的土地利用 32
(3)所有権─共通善としての持続可能な土地利用 33
3 政治的意思の欠如 36
(1)持続可能な農業の指導像の欠如 36
(2)不正確な法律 37
4 政治的形成意思の不適切な補充 38
(1)国民投票 38
(2)裁判官による法形成 38
(3)展望 39
持続的な農業的土地利用の形成のための公的手段としての補助金─EU共通農業政策を例に─ Anna-Lena Poppe 40
I 基本概念 41
II 欧州連合における農業補助金の資金量 42
III 農業補助金による持続可能な農地利用の具体的な形成 43
1 二本柱の体系 43
2 直接支払の「エコ・アーキテクチャー」(第一の柱) 46
(1)クロス・コンプライアンス 2014─2022 47
(2)グリーニング 2014─2022 48
(3)2023年以降の新しいエコ条件 49
(4)2023年以降のエコスキーム 50
3 農業環境・気候措置 (第二の柱) 51
IV 何故要請ではなく助成か? 51
V 総括評価 53
家族経営の維持との対立関係における農業の工業化 Friederike Heise Jonas Lohstroh, B.A. 55
はじめに 55
I 農業の工業化 56
1 歴史的経緯 56
2 工業化の特徴と帰結 58
3 法との接点 60
4 ネガティブな影響 61
II 家族経営の農場を守る 63
1 家族経営の定義 63
2 農業法における農業家族経営の位置づけ 64
(1)法規範において 65
(2)一般的に指導像とは何か? 66
(3)農業構造上の発展の指導像としての家族経営 67
(4)この指導像は,農業構造の文脈ではどのような影響を与えるか? 69
3 維持 69
(1)維持の必要性 70
(2)保存に値する 70
III 工業化との対立関係 72
3.農地法制が直面する問題
土地とシェアディールの譲渡に関する法的規制 Anna Kiermeier 74
I 今日のドイツにおける土地譲渡の法的規制 74
II ドイツにおけるシェアディール 77
1 農林地取引法の目的 78
2 非農業分野の投資家が農業企業に参加することによって,これらの目的が損なわれることはないか 79
(1)具体的な危険? 79
3 抽象的危険 81
(1)食糧安全保障への危険性 81
(2)農業構造の安定化に対する危険 81
(3)所有権者として経営する家族の手にある農場保全に対する危険性 82
III 規制案 82
IV 憲法適合的な解決策 83
1 食料安全保障 84
2 市場と価格の安定性 84
3 農業構造への影響 85
4 農村空間 85
V 結論 86
ドイツにおける農用地取引の制御 Josè Martinez 87
I ドイツの農林地取引法はなお時宜に適したものものだろうか 87
II 1918年から今日に至る農林地取引法制の史的背景 88
III 農林地取引法制の機能と限界 90
IV 農林地取引法制の試練 91
1 東西ドイツにおける不均等な農業構造 91
2 地価の上昇 92
3 経営規模の拡大 94
4 農企業の増加 95
V 許可の拒否事由 96
1 拒絶理由「土地の不健全な分配」(第1号)。 97
(1)農業構造の改善 97
(2)農業者と,非農業者の区別 99
(3)切迫した規模拡大要請 102
(4)農業者間の競合 104
(5)入植会社の先買権 105
2 不経済な細分化(第9条1項2号) 105
3 著しく不釣り合いな購入価格(第9条1項3号) 106
VI 法人の農林地取引に対する統制 114
1 農業者としての社員 114
2 社員による土地取引のカテゴリー 117
(1)事業譲渡 117
(2)会社への出資 117
(3)会社持分の購入による土地移転(シェアディール) 118
3 各州の法律案に見る解決案 121
(1)許可義務の適用範囲をシェアディールに単純に拡張する案 121
(2) 適用範囲の適格な拡大 121
(3)具体的な拒否事由の明示 124
4 ザクセン=アンハルト州2020年農業構造改善法案 125
VII 結論 ─ 立法実験の場としての農林地取引法 128
第2部 中国編
1.民法典上の用益物権制度および集団所有権をめぐる立法の概要とその評価
民法典物権編における用益物権制度立法の良し悪しに関する私見 陳小君 133
I 条文データから立法理念および継承・取捨選択をみる 134
1 立法上の条文配列の変化 134
2 立法の筋道における新旧の取捨選択 135
3 改正内容の主な特徴 137
(1)物権法定原則の堅持または緩和 137
(2)誘導的条項の適用をめぐる柔軟性またはその曖昧さ 139
(3)新しい制度が民法典に入るに当たっての原則および基準の統一または食い違い 142
II 新たに増えた内容から制度構造と価値方向をみる ─居住権を例にして 143
1 居住権の制度上の意図と民法典に入るに当たっての筋道 143
2 居住権のもつ権能の特徴とプラス・マイナス効果 145
3 居住権が民法典に入ることにより起こり得る司法上の課題 148
III 誘導的条項に沿って立法と実践上の難題をみる─建設用地使用権を例にして 151
1 国有および集団建設用地使用権に関する立法上の基本的徴表 152
2 土地管理法改正後の集団建設用地制度における際立った注目ポイント 154
3 集団建設用地の「市場参入」に伴う移転をめぐる実践上の難題 155
(1)新しい土地管理法の集団建設用地の市場参入に関する利益還元は限られ,且つ,宣言的意義が実際の効果より大きい 155
(2)集団建設用地に関する試験的市場参入の実践と収用制度の実施との間では双方向の矛盾または衝突の様相を呈している 156
(3)集団建設用地に関する試験的市場参入の実践と宅地改革との間では一方的な転換という正常でない態勢が形成された 157
民法典上の集団所有権立法において成し遂げた点と不足点 高飛 160
I 民法典上の集団所有権立法のあるべき目標 161
II 民法典上の集団所有権立法において成し遂げた点およびその意義 165
III 民法典上の集団所有権立法における不足点およびその改善方法 171
2.農地「三権分置」政策をめぐる立法および制度上の課題 土地改革における「三権分置」の立法化およびその実現障害の解消─「農村土地請負法修正案」を評す─ 陳小君 178
I 農村土地制度改革の立法過程に関する分析 178
1 立法過程における幾つかの法律を同時に改正する関係についての分析 180
2 立法者による政策の意味内容と法律上の展開の関係についての処理 183
II 「農村土地請負法修正案」における関連規則の法理論的基礎についての検討 185
1 制度設計の本意についての猜疑:立法における論理の規範的作用に背くのではないか 186
2 常識的概念を定義することの恣意性:民法上の物権と債権の二分という基本原理の混同 188
3 権利目標に関する一方向の考え方:法の体系化と協調的適用という要求の軽視 190
4 法律改正の指導原則の単純化:農村の重要な実際問題の系統だった解決を軽んずること 192
III 農地の「三権分置」政策に関するあるべき立法の方向 195
1 公有制を保持し農村社会秩序を安定させる集団所有権 195
2 農民大衆を安定させ発展の利益を保障する土地請負経営権 197
3 現代農業が繁栄し経営者の予期目標が達成されるよう導く土地経営権 199
IV 結語 201
都市に移り住んだ農家の請負地の処理をめぐる苦境と活路 高飛 202
I 都市に移り住んだ農家の請負地に関する処理規則についての法理論的検討 203
II 都市に移り住んだ農家の請負地に関する処理規則の生成根源 208
1 集団土地のもつ公有制という機能の空虚化 209
2 政策趣旨の法律上の表現の簡略化 210
3 法律規則の設計思考上の論理の混乱さ 213
III 都市に移り住んだ農家の請負地に関する処理規則の実現において進むべき道 214
1 土地請負経営権の権利性質の画定 215
2 構成員資格喪失の法的効果 216
3 請負費免除の法理論上の根拠および立法上の対応 219
IV 結語 221
農地の三権分置改革における土地経営権についての法理論上の再考と制度上の対応 耿卓 222
I 土地経営権の体系上の位置づけ 223
1 三権分置改革の動因および目標 223
(1)動因についての考察 223
(2)目標 226
2 土地経営権の価値と機能 228
3 土地経営権のあるべき属性 230
II 土地経営権についての三重の検討 233
1 公平と効率という価値上の取捨選択 234
2 体系化 236
(1)土地経営権と土地請負経営権の関係 237
(2)土地経営権と土地所有権の関係に関する体系的省察 239
3 実践的論理 240
4 小括 243
III 土地経営権についての立法上の対応 244
1 法律による政策の実現をめぐる立場と考え方 244
2 法律による政策実現の規則 245
(1)土地経営権という法律用語 245
(2)土地経営権の設定と譲渡 245
(3)土地経営権の移転 246
IV 結語 247
3.宅地「三権分置」改革の現状およびその課題
宅地使用権をめぐる制度上の難局とその解決方法 陳小君 249
I 宅地使用権制度をめぐる機能の再考と再構築に関する体系的考慮 250
1 社会保障的機能と経済的価値の利用との間の衝突 251
(1)社会保障的機能の弱体化と経済的価値の顕在化が,目下の顕著な実情である 251
(2)経済的利用を中核とする改革実践は,制度上の乗り越えと統一を呼びかけている 253
(3)宅地使用権への完全な権能の付与および私権的属性への回帰における制度的核心 255
2 移転の解禁という目標の下における制度設計上の難点とその対応 257
(1)宅地に関する「三権分置」の制度上の意味内容およびその法制度上の実現方法 257
(2)「建物と土地の一体化」原則の下における法定賃借権の体系的構築 262
(3)宅地移転に関する法制度上のメカニズムと規制方法 265
3 物権法の改正を拠り所とする体系的構築の突破 267
(1)宅地使用権の私権的属性は,それが物権編に帰属されることを決定づけた 268
(2)「得喪変更」という制度設計方針は,宅地使用権が物権編に入るに当たっての基本的準則である 269
II 宅地使用権取得規則の明確化 270
1 宅地使用権の取得条件の堅持と,現実的ニーズに配慮した権利の区分 271
2 宅地の申請と再分配 274
3 宅地使用権取得の法定手続 276
(1)農民集団の同意権を明確にし,かつ,認可権についてはこれを下級機関へ権限移譲すること 277
(2)宅地使用権に関する登記効力発生主義を明確にすること 279
III 宅地使用権の変更に関する移転の解禁およびその実現 281
1 宅地使用権の譲渡可能な事由を厳格に制限すること 281
2 単独での宅地使用権の譲渡および抵当を禁止すること 283
3 法定宅地賃借権に関する制度設計 285
4 宅地上の家屋売買の「解禁」および権利の実現 287
5 宅地使用権の抵当権設定と実現に関する若干の要点 290
IV 宅地使用権の消滅に関する回収メカニズム,退出メカニズムおよび回復方法 292
1 宅地使用権回収制度に関する公平なメカニズム 293
2 農地制度改革の実践に対応する有償退出メカニズム 294
3 宅地の構成員資格に基づく使用権回復方法の実行 297
宅地の「三権分置」改革における基本的準則およびその貫徹 耿卓 300
I 問題の提起 300
II 宅地の「三権分置」改革の価値目標 301
1 改革実践の動因についての考察 302
2 改革に関する政策文書についての分析 304
3 価値目標の解析 305
(1)1世帯1宅地から住居があることへ 305
(2)粗放・低効率から集約・高効率へ 306
(3)機能の過負荷から価値の純化と顕在化へ 308
III 宅地の「三権分置」改革における体系的論理の貫徹 309
1 無償モデルおよびその変遷 310
2 有償モデルおよびその改善 312
3 改革プランの選択 315
IV 宅地の「三権分置」改革における体系上の協同 316
1 宅地の「三権分置」改革を体系的に理解すること 316
(1)集団所有権を十分に重視し,所有権の実現方式を新たに作り出す 317
(2)「資格権」を正しく理解し,構成員に「住居がある」ことを確保する 317
2 宅地の「三権分置」改革における外部協同 319
V 結論と建議 322
【付録】中国編関連条文集 325
第3部 日本編
日本におけるみどりの食料システム戦略のねらいと課題 安藤光義 379
I はじめに 379
II 長期的な目標を掲げたみどりの食料システム戦略 380
III みどりの食料システム法の仕組みとねらい 381
1 基本は消費者負担型農政 381
2 実際に取り組むのは環境負荷低減事業活動─計画認定制度─ 382
3 事業活動推進のための予算と農業者への支援措置 384
IV みどりの食料システム戦略の推進に向けての課題 384
V 環境シフトを進めるEUの直接支払い 385
1 日本型直接支払制度 385
2 クロスコンプライアンスの導入からグリーニングの義務化 386
3 コンディショナリティーの導入 387
VI おわりに 389
中山間地域における農地管理と地域自治の展開 ─福島県東和地域を事例に 岩崎由美子 391
はじめに─本稿の目的 391
I 農村政策の変遷 392
1 基本法前史における農村政策の特徴 392
2 中山間地域等直接支払制度の登場 393
3 基本法下における基本計画の変遷 395
(1)第1回計画(2000年閣議決定) 396
(2)第2回計画(2005年閣議決定) 396
(3)第3回計画(2010年閣議決定) 397
(4)第4回計画(2015年閣議決定) 397
(5)第5回計画(2020年閣議決定) 398
(6)基本法および基本計画における農村政策をめぐる論点 399
II 福島県東和地域における農地管理と集落再生の取り組み 400
1 地域の概要 400
2 東和における地域づくりの変遷 401
(1)第1期:養蚕の衰退と有機農業運動の広がり(1980年代後半~) 401
(2)第2期:市町村合併と対峙して─「もうひとつの公共」NPOの設立(2000年代~) 405
(3)第3期:東日本大震災・原発事故からの復興─農家が自ら行う測定活動(2011年~) 412
(4)第4期:少子高齢化の進行の中での集落再生─日本型直接支払の活用(2010年代後半~) 416
III むすびにかえて 426
日本における持続可能な農地利用のための法制 ─ドイツ、中国との比較を踏まえて 楜澤能生 432
はじめに 432
I 耕作者主義 433
1 職務と所有 433
2 私的所有権の導入とその帰結 434
3 農地法制の必要に対する意識の醸成 435
4 農地所有権の転換 436
5 農業生産法人制度 441
6 農作業常時従事要件 441
II 農地の集団的自主管理の法制化 442
1 農業村落における農地管理の慣行 442
2 農地の自主管理の法制化 443
III 農地制度改廃の動向 444
1 日本農業の担い手論 444
2 農業生産法人の要件緩和 445
3 農地の集団的自主管理への対抗 445
IV 農地制度の再定位と農地所有権の概念 446
1 所有の個体性(生産手段と経営と労働の三位一体) 446
2 所有の共同性 447
3 個体的社会的所有としての農地所有権 448
4 中国の農地所有における個体性と共同性 448
V 課題 450
1 持続的農地利用実現のための公的資金の活用 451
2 農業政策と農地政策の一貫性の確保 451
3 自主管理の仕組みの整理とそれへの支援 452