アメリカ最高裁とロバーツ・コート
新刊
早稲田大学比較法研究所叢書51

アメリカ最高裁とロバーツ・コート

―先例拘束原理の展開―
宮川成雄 編
定価:4,826円(税込)
  • 在庫:
    在庫があります
  • 発行:
    2024年03月31日
  • 判型:
    A5判上製
  • ページ数:
    352頁
  • ISBN:
    978-4-7923-0732-5
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内容紹介


《目 次》

はじめに   宮川成雄 i

序章 アメリカ法における先例拘束原理
アメリカ法における判例変更の一つの範型 ─社会変動と規範意識の変化─   宮川成雄 3
I.アメリカ法の三大判例変更3
II.アメリカ法における先例拘束原理5
 1.先例拘束原理5
 2.アメリカ法における判例変更の基準5
III.Brown判決およびWest Coast Hotel判決による判例変更6
 1.Brown v. Board of Education(1954)6
 2.West Coast Hotel Co. v. Parrish (1937)10
IV.Dobbs判決が中絶の権利を否定した判例変更14
 1.デュー・プロセス条項の「自由」と「基本的権利」14
 2.実体的デュー・プロセス理論と中絶の権利16
 3.判例変更の5つの基準18
 (1)甚だしい誤り19
 (2)理由付けの薄弱さ19
 (3)判示された基準が機能しないこと20
 (4)他の分野への悪影響21
 (5)期待利益を侵害しないこと21
V.社会経験に基づかない形式論理の否定と新しい規範意識の確認21
 1.正されるべき「甚だしい誤り」21
 2.Dobbs判決の認識する「甚だしい誤り」23
 3.Dobbs判決による「中絶を得る権利」と「中絶を終了する自由」のすり替え24
 4.実体的デュー・プロセス理論の下で保護される「自由」の判断基準24
VI.Brown判決およびWest Coast Hotel判決と対比したDobbs判決の判例変更26

第I部 ロバーツ・コートの先例拘束原理と中絶判例
第1章 ロバーツ・コートと中絶判例の変更 ─2022年6月24日判決が意味するもの─   小竹 聡 31
はじめに31
I.事実の概要31
 1.州法の内容31
 2.下級審判決33
 3.裁量上訴の受理と州側の主張の変化,裁判所の友35
 4.合衆国最高裁判決37
II.判決の内容37
 1.アリート裁判官の法廷意見37
 2.トーマス裁判官の同意意見54
 3.キャヴァノー裁判官の同意意見56
 4.ロバーツ首席裁判官の結論同意意見60
 5.ブライア、ソトマヨール、ケイガン各裁判官の共同反対意見64
III.検討65
 1.判決の意義と分析の視点65
 2.法廷意見の問題点67
 (1)実体的デュー・プロセスと中絶を受ける権利67
 (2)他の「自由」の利益への波及71
 (3)中絶の権利の不可欠性の主張に対する反論73
 (4)合理的根拠の基準と州の正当な利益の例示73
 (5)憲法事件における先例拘束性の法理の無力化の懸念74
 (6)法の支配についての理解76
 3.結論同意意見の評価77
おわりに78

第2章 合衆国最高裁判所判決の規範性 ─2022年Dobbs判決を契機とする先例拘束性の原理についての一考察─   紙谷雅子 80
I.アボーションをめぐる社会状況80
 1. 80
 2. 84
 3. 85
II.先例変更の要件87
 1. 87
 2. 88
 3. 90
 4. 91
III.個人化した先例拘束性の原理94
 1. 94
 2. 95
 3. 97
IV.組織としての先例への期待98


第II部 ロバーツ・コートの司法観
第1章 ロバーツ・コートの今後 ─憲法解釈と司法観を巡る保守派裁判官の異同─   秋葉丈志 103
I.合衆国最高裁の判例形成とpoliticization(政治化)103
 1.はじめに103
 2.憲法解釈とjudicial politics(司法政治)104
 (1)合衆国最高裁:リベラル派の裁判官と保守派の裁判官の対立や妥協による判例形成104
 (2)憲法解釈のアプローチ,司法観を巡る対立105
 3.リベラル対保守の構図から保守派内のダイナミクスへの移行106
 (1)Swing vote(決定票)としての中道派106
 (2)トランプ政権下のバランス変化107
II.ロバーツ・コートの司法観108
 1.保守派裁判官の「タイプ」の違い108
 (1)穏健保守タイプ(以下「穏健派」)109
 (2)保守的憲法解釈重視タイプ(以下「解釈重視派」)110
 (3)保守イデオローグ(以下「イデオロギー重視派」)111
 2.主要判決に見るロバーツ・コートの勢力変遷111
 (1)穏健派の優位112
 (2)解釈重視派の「活躍」114
 (3)イデオロギー重視派の台頭115
 (4)小括116
III.保守派裁判官の憲法解釈の異同:プライバシー権を例に117
 1.分析の視点について117
 (1)分析する事項117
 (2)分析に用いたケース(判例)118
 2.憲法解釈の変更・先例拘束性119
 (1)Roe判決の先例拘束性120
 (2)Lawrence判決及びDobbs判決における先例の変更121
 (3)外国法の参照123
 (4)総括123
 3.司法(裁判所,裁判官)の役割とその限界について124
 (1)Roe判決を巡る保守派裁判官間の温度差124
 (2)ロバーツの柔軟性125
 4.民主制の過程(democratic process),政治部門や人民の意思(の尊重)について126
 (1)スカーリアからアリート,中絶権から同性カップルの権利(への反対)に通じる一貫性126
 (2)ロバーツの柔軟性127
 (3)「信教の自由」の観点も128
 (4)小括:マイノリティの権利への視点の欠如128
 5.第14修正(特にdue process条項)の解釈について129
 (1)穏健派の主張129
 (2)解釈重視派の主張131
 (3)イデオロギー重視派の主張132
 (4)Dobbs判決の射程について133
 (5)小括134
IV.総括:ロバーツ・コートの今後134
 1.一つのシミュレーション134
 2.合衆国最高裁判所の向かう先136

第2章 司法府の公正と信頼 ─ロバーツ・コートのドブス判決を契機にして─   松井茂記 137
はじめに137
I.ブッシュ対ゴア判決138
 1.ブッシュ対ゴア判決に至る道筋138
 2.ブッシュ対ゴア判決141
 3.ブッシュ対ゴア判決のインパクト142
II.ドブス判決145
 1.ドブス判決に至る道筋145
 2.ドブス判決150
 3.ドブス判決のインパクト152
III.司法府の公正さに対する信頼性とは何か156
 1.なぜ司法府の公正さへの信頼性が問題となるのか156
 2.なぜ党派的だといけないのか158
IV.司法府の公正と先例162
 1.先例拘束の原則と司法府の公正さに対する信頼162
 2.先例拘束性の遵守は司法府の公正さにつながるのか166
結びに代えて167


第III部 ロバーツ・コートの訴訟事件簿管理
第1章 ロバーツ・コートとCOVID-19 ─シャドー・ドケットの問題にも触れつつ─   松本哲治 175
はじめに175
I.シャドー・ドケットについて176
 1.用語176
 2.法律・規則・先例の定める手続178
 3.処理のパターン179
II.2020年末までの状況180
 1.感染の発生180
 2.South Bay United Pentecostal Church v. Newsom (South Bay I), 140 S. Ct. 1613 (2020)181
 3.Calvary Chapel Dayton Valley v. Sisolak, 140 S. Ct. 2603 (2020)181
 4.Roman Catholic Diocese v. Cuomo, 141 S. Ct. 63 (2020)182
 5.いくつかの差し戻し事件183
 6.Danville Christian Acad., Inc. v. Beshear, 141 S. Ct. 527 (2020)183
 7.刑事収容施設における問題184
III.信教の自由をめぐる事件その後185
 1.South Bay United Pentecostal Church v. Newsom (South Bay II), 141 S. Ct. 716 (2021)186
 2.Gish v. Newsom, 141 S. Ct. 1290 (2021)187
 3.Gateway City Church v. Newsom, 141 S. Ct. 1460(2021)187
 4.Tandon v. Newsom, 141 S. Ct. 1294(2021)188
 5.最高裁の判断が求められなかったコロラド州の事案189
 6.Fulton v. City of Philadelphia, Pennsylvania, 141 S. Ct. 1868 (2021)189
IV.ワクチンをめぐる事件192
 1.Klaassen v. Trs. of Ind. Univ.192
 2.Rachel Maniscalco v. New York City Department of Education192
 3.Doe v. Mills, 142 S. Ct. 17 (2021)193
 4.Dr. A v. Hochul, 142 S. Ct. 552 (2021); We The Patriots USA, Inc. v. Hochul, 142 S. Ct. 734 (2021)195
 5.連邦法上のワクチン義務づけに関する2判決196
 (1)National Federation of Independent Business v. Department of Labor, Occupational Safety and Health Administration, 142 S. Ct. 661 (2022)196
 (2)Biden v. Missouri, 142 S. Ct. 647 (2022)198
 6.Austin v. Seals, 142 S. Ct. 1301(2022)198
 7.ニューヨーク州のワクチン義務付けについてのパンデミック前の法改正による宗教上の免除規定の削除について(裁量上訴不受理)200
 8.さらにその後201
 (1)マスク201
 (2)訴訟遅延202
 (3)奨学金の返還免除202
 (4)ミシシッピ州のワクチンの宗教的理由での免除203
おわりに204

第2章 シャドー・ドケットと透明性をめぐる憲法的課題 水谷瑛嗣郎 206
I.イントロダクション─「影の訴訟事件簿」206
II.シャドー・ドケットをめぐる諸議論208
 1.シャドー・ドケットとは何か208
 2.シャドー・ドケットの影響力209
 3.シャドー・ドケットの法的根拠210
III.立法府と執行府の反応211
 1.立法府の反応211
 2.執行府─バイデン政権の動き212
 3.合衆国最高裁内部の動向213
IV.憲法上の課題216
 1.透明性の欠如216
 2.二つの課題─先例拘束性と政治的イデオロギー対立216
V.若干の考察220


第IV部 ロバーツ・コートと表現の自由の「武器化」 
第1章 ロバーツ・コートとヘイト・スピーチ ─批判的人種理論の位置付け─   桧垣伸次 225
はじめに225
Ⅰ.ロバーツ・コートとヘイト・スピーチ227
 1.スナイダー判決227
 (1)事実227
 (2)ロバーツ首席裁判官による法廷意見(スカリア裁判官,ケネディ裁判官,トーマス裁判官,ギンズバーグ裁判官,ブライヤー裁判官,ソトマイヨール裁判官,ケイガン裁判官同調)228
 2.ウォーカー判決229
 (1)事実229
 (2)ブライヤー裁判官による法廷意見(トーマス裁判官,ギンズバーグ裁判官,ソトマイヨール裁判官,ケイガン裁判官同調)230
 3.タム判決232
 (1)事実232
 (2)アリート裁判官による法廷意見および意見233
 4.小括235
 (1)ロバーツ・コートの表現の自由法理と先例との齟齬235
 (2)ロバーツ・コートとヘイト・スピーチ236
II.ロバーツ・コートによる表現の自由の武器化とマイノリティ238
 1.保守的なロバーツ・コートと表現の自由238
 2.分極化と表現の自由の「武器化」242
III.批判的人種理論245
 1.社会の分断と批判的人種理論245
 (1)批判的人種理論とは245
 (2)批判的人種理論に対する批判247
 2.中立性に対する批判250
 3.マイノリティの視点の導入─ブラック判決の示唆252
むすび255

第2章 ロバーツ・コートにおける表現の自由の「武器化」   森口千弘 257
はじめに257
Ⅰ.表現の自由の「武器化」260
 1.Janus判決261
 2.NIFLA判決─中絶の権利への「武器」としての表現の自由263
 3.「武器」としての表現の自由?265
II.「表現保護的」な裁判所?266
III.厳格な審査基準のゆらぎ270
 1.違憲審査基準の「操作」?270
 2.内容中立性ルールの「操作」271
 (1)「厳格な審査基準」をめぐる混乱271
 (2)「強制された言論」における厳格な審査基準の拡大277
 2.政府言論の法理におけるカテゴライズの問題280
 3.小括283
むすびに283


第Ⅴ部 ロバーツ・コートにおける執行権の位置付け
第1章 ロバーツ・コートにおける独立行政機関に関する判例法理の変容   御幸聖樹 289
はじめに289
I.前提290
 1.規範290
 2.公務員罷免権の意義291
 3.公務員罷免権が問題となる背景291
II.合衆国最高裁判例の流れ292
 1.ロバーツ・コート以前292
 (1)出発点としての代表的な2判例292
 (2)判例規範の変容294
 2.ロバーツ・コート295
 (1)ロバーツ・コートの3判例295
 (2)ロバーツ・コートにおける公務員罷免権に関する判例法理の整理298
 (3)公務員罷免権を巡る判例における,ロバーツ・コートの特徴299
第2章 行政組織編成における統治(執政)・行政の区別について   沼本祐太 301
はじめに301
I.統治(執政)・行政の区別と独立行政委員会をめぐる議論302
 1.山田幸男303
 2.小嶋和司303
 3.駒村圭吾305
 4.統治(執政)・行政区別の困難性306
 5.ドイツにおける独立機関論 ─ 「組織法上の輸入品」308
II.ドイツにおける議論310
 1.作用としての統治(執政)・行政310
 2.いかに区別するか313
 3.執行府内部における「身分法上の権力分立」314
 4.政治的官吏 ─ 行政の領域の保全316
 5.独立した機関321
III.統治(執政)・行政の区別と個別問題 ─政官関係・独立機関─324
 1.政官関係─近時の注目すべき見解324
 2.独立機関326
おわりに328